文頭のAnd/Butから考える規範文法と記述文法

英検などのライティングを少し学習したことのある方なら「文法でAndやButを使ってはいけない」という風に習った方は多いかと思います。これらの使い方は文法的に正しくないと併せて説明されるケースも多いと思います。で、さらにもう少し英語に触れる機会が多い方でこのように感じたことがある人も多いのではないでしょうか。「ネイティブって文頭でAndとかBut使ってるじゃん」と。実際小説などの文学でも文頭にAndやButを使用しているものは数多く存在します。

参考までに、人によって考え方が変わる部分もあるかもしれませんが、もし自分が英検のライティング指導をすることになったら絶対に文頭にAndやButは使わないようにと伝えると思います。ただ、その理由を隅々まで解説するのはなかなか大変なのでザックリと「文法的に正しくない」と話すかもしれません。

さて、AndとButを文頭で使うのは正しくないとすると、ネイティブは文法を守っていないということになります。そこで自分は「文法的に正しい、正しくないを判断しないといけないのだとしたら文法の定義を明確にするべきなのではないか?」「そもそも文法とは何のためにあるのか?」などと言うこと考え始めてリサーチしたところ色々と面白い発見がありましたので今回は記事にしてみました。

言語学等を専攻されている方にとっては当たり前のことかもしれませんが、そうでない方にとってなるべく分かりやすくまとめてみました。

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文頭のAndとButがダメとされる理由

まず本題に入るためにここからクリアにしていきましょう。

AndとButは文法的には等位接続詞(coordinating conjunction)という接続詞の1つになります。接続詞の役割は節(clause)と節をつなぐというもので、接続詞と使うことで

I like apples, but he likes oranges.

というような2つの節をつなぐことが可能になります。一応おさらいしておくと節とは主語(Subject)と動詞(Verb)を含む単語のかたまりのことですね。

これは逆に言うと接続詞を使う限りは節と節をつながないといけないということになります。
例えば、

I was very tired last night. But I did my homework last night.

のような文頭にButを置くと、Butを含む文ではSVが1組だけで2つの節をつないでいないことになります。そのため正しくは、

I was very tired last night, but I did my homework last night.

のように2つの文を1つにまとめてbutで2つの節をつなぐ形にしないといけません。
もし文頭で使いたいのであれば接続機能を持たない副詞(接続副詞)であるHowever等を使って、

I was very tired last night. However, I did my homework last night.

とするのが正しいです。
ですので、AndやButを文頭に置くのが誤りというよりも、続詞を置いているにも関わらず節と節をつないでいないことが誤りとなると言えそうですね。

けちゅ
ちなみにカナダのカレッジでアカデミックライティングの授業を受けた時も同じように説明されたよ。
ですので、接続詞は節と節をつながなくてはいけないという文法ルールに反しているので文頭のAnd/Butの使用は文法的に誤りであると言えるわけです。ただ、これはあくまでも数ある視点のうちの1つであり、ここで言う「文法」が何を指すかを明確にする必要があります。

規範文法と記述文法

さて、ここからがこの記事の本題です。厳密に言うと文法には2つの種類があります。これらの概念は通常一般的な英語学習者の方が気にする必要はほとんどないものかなと思います。ただ、これらの概念を混同してしまうと不都合が生じる場合もあり、文頭のAnd/Butもその1つなのかなと思っています。

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規範文法

規範文法(Prescriptive Grammar)とは、「言語はどうあるべきか」を定めるルールブックのような文法を指します。言語をを一種の法律やマナーのようにとらえて正しい言葉遣いと間違った言葉遣いの境界線を明確に引く裁判官の役割を果たします。

英検やIELTSなどの資格試験、学術論文で使われる文法は基本的にこちらであり、学校で習う文法もこちらとなります。このような場ではネイティブ、ノンネイティブに関わらず適用されるルールとなります。

記述文法

一方で記述文法(Descriptive Grammar)とは言語が実際にどのように使われているかを記録する観察図鑑のような考え方です。言語を日々変化していく生き物のように捉えて生態学者のようにリアルなデータを集めてそこからパターンを見出そうとするものです。規範文法が人工物であることを考えると真逆のものとも言えそうですね。

言語の起源を考えると先に文法があってから言語が生まれてきたわけではないので、この記述文法の方が自然な文法という考え方もできるかもしれません。その言語の話者に使われている以上それが文法であり、記述文法の考え方に立つとそもそも正確・不正確という考え方もあまり意味をなさなくなります。もちろん時代とともに常に変化していくものであり、言語学者の研究対象となるものこの記述文法になります。

けちゅ
ここまで読んだらもうわかったと思うけど、文頭のAnd/Butは実際に使われている(記述文法)けど、教育現場や試験対策では規範文法的な考え方が重視されるから避けた方がよい表現として指導されることが多いんだよ。
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規範文法をもう少し詳しく

前項で規範文法はルールブックのようなものと書きましたが、誰がどのように定めたかという点を詳しく見ていきましょう。そもそも英語においては規範文法とは1つのものではありません。フランス語には「アカデミー・フランセーズ」という国が定めた公式の言語機関があるのですが、「英語の絶対ルールはこれだ」と法的に定めている団体は存在しません。

規範文法の起源

英語における現在の学校文法の土台は18世紀のイギリスの文法学者たちによって作られたようです。英語を「より洗練された言語」として権威づけるため、当時最も高尚とされていたラテン語のルールを無理矢理英語に当てはめる形で制定されたようです。例えば、「前置詞で文を終わらせてはいけない」といった本来の英語の自然なリズムに反するようなルールも生まれていたようです。

また、当時の教育現場も事情も大きく絡んでいるようで学校の先生たちは子どもたちに「主語と動詞がしっかり揃った完全な文」を書かせる訓練のために、指導上のローカルルールを数多く設けました。本来は子どもに正しい文章を身に着けるさせるための教育用の補助輪のようなものに過ぎなかった方針が、時代が進むにつれて破ってはいけない絶対のルールとして定着してしまったという歴史的背景があるようです。

けちゅ
ここを書き終えてから思ったけど起源は今回の話には何にも関係ないよね。忘れていいよ。

現代における規範文法

現代においても「これが現代英語の規範文法そのものである」という単一の権威ある文書や機関が存在するわけではありません。そのため現代英語の規範文法は複数の文法書・辞典・スタイルガイドによって形成される「合意の集合体」と考えるのが実態に近いですね。なんともフワッとした話ですね。以下は規範文法と考えられるものの例になります。

文法書

『A Comprehensive Grammar of the English Language』
『Practical English Usage』(Michael Swan 著) など

英語の品詞や文の構造など、体系的なルールを解説する書籍です。学習者や教師向けに「標準的な英語」のルールを提示する役割を担っており、長年にわたって規範文法のベースを形成してきました。

用法辞典(Usage guides)

『Fowler’s Dictionary of Modern English Usage』
『Garner’s Modern English Usage』 など

特定の単語の使い分けや、よくある間違い、表記の揺れに対して「どう書くのが好ましいか」を具体的に指示する辞典です。言葉の正誤や品格を判断する、まさに「裁判官」のような役割を果たします。

スタイルガイド

『The Chicago Manual of Style』
『APA Style』 など

出版社や学術機関が、出版物や論文の表記を統一するために定めている執筆マニュアルです。句読点の打ち方から、客観的なトーンの保ち方まで、フォーマルな文章の「型」を厳格に規定しています。

教育機関の作文指導基準

英検やIELTSなどのライティング採点基準
各国の学習指導要領 など

学校教育や語学テストにおいて、生徒や受験者の英語力を評価・採点するためのルール(ルーブリック)です。「主語と動詞をしっかり書かせる」といった教育的な配慮から生まれたルールが色濃く反映されています。

文頭のAnd/Butは規範文法に反するのか

話をもう一度文法のAnd/Butに戻しましょう。「これらは記述文法的にはOKだが、規範文法的にはNGである」結論が出せれば話は早いのですが、ここからまた一段階話がややこしくなります。結論としては、参照する規範文法によって答えが真っ二つに分かれるということになります。

スタイルガイドの立場

出版業界の世界的バイブルである『The Chicago Manual of Style(シカゴ・マニュアル・オブ・スタイル)』の第17版、5.206(Conjunctions and sentence beginnings)を見てみましょう。

“There is a widespread belief—one with no historical or grammatical foundation—that it is an error to begin a sentence with a conjunction such as and, but, or so. In fact, a substantial percentage (often as many as 10 percent) of the sentences in first-rate writing begin with conjunctions. It has been so for centuries, and even the most conservative grammarians have followed this practice.”

(The Chicago Manual of Style, 17th ed., 5.206 より)

【日本語訳】
and や but、so のような接続詞で文を始めるのは誤りであるという広く信じられている説がありますが、これには歴史的・文法的な根拠が一切ありません。 実際のところ、一流の文章のかなり多くの割合(しばしば10%にも上る)が接続詞から始まっています。これは何世紀にもわたってそうであり、最も保守的な文法学者たちでさえこの慣習に従ってきました。

このようにはっきりと文頭のAnd/Butがルール違反というのは誤りであり、むしろ伝統的な正しい文法であると述べているわけです。これはなかなか衝撃ですよね。出版やプロの執筆の世界の規範においては、文法のAnd/Butはルール違反どころか正当な英語の姿だったということになります。

教育機関の作文指導基準

一方で教育現場の立場は正反対となります。世界中の大学の留学生向けライティングコースで採用されている権威ある教科書『Writing Academic English』(Alice Oshima, Ann Hogue 著)を見てみましょう。

“In informal English, you may begin a sentence with a coordinating conjunction. In academic English, you should not.”

(Oshima, A. & Hogue, A., Writing Academic English, 4th ed., Pearson Longman より)

【日本語訳】
インフォーマルな英語においては、等位接続詞から文を始めても構いません。しかし、アカデミックな英語においては、そうすべきではありません。

このようにアカデミックライティングにおける文頭のAnd/Butを避けるべきとしています。このような結論になる理由は色々あるかと思いますが、英語学習者のブロークンな英語を防ぐため、フォーマル度の低下を防ぐため、などが考えられるかと思います。出版・執筆の世界と教育業界は分けて考えるべきとも言えそうですね。

つまり文頭のAnd/Butに関しては、
記述文法の立場 → 自然に使われており全く問題ない。
規範文法(スタイルガイドの立場) → 許容、あるいは正当な用法とされることが多い。
規範文法(教育機関の立場) → 非推奨。
ということになります。

英検ではどうなのか

ここはおそらく日本人の英語学習者であれば一番気になるところではないでしょうか。個人的には冒頭にも書いた通り絶対に避けた方が良いと考えています。

まず、英検という試験の性質を考えると上記の教育機関の立場に立つのが最も合理的かと思います。もちろん英検には英検の採点基準があるかと思うので必ずしも『Writing Academic English』のような教科書と同じ立場とは限りませんが、それを知る術はありません。「出版業界では非常に自然だから」という理由で使用するのはリスクが高すぎます。

あくまでも私個人の経験ですが、カナダのカレッジのアカデミックライティング講座でもIELTS対策講座でもそのように指導されてきたので、おそらく英検以外の試験でも避けるのが無難かと思います。

けちゅ
英検本番で非の打ち所がないエッセイを書ける方があえて文法にAndとButを使いまくった答案を出すような実験をしてみた時は是非採点結果を教えてね!

まとめ

ここまでで分かったかと思いますが文頭のAnd/Butが文法的に正しいかどうかを論じるのは簡単な話ではありません。文頭での使用はフォーマルさを損なうという指摘はもちろんその通りなのですが、それが直ちに文法的に誤りだということにはなり得ません。ただ、英語で他の方と交流するだけなら全く気にする必要は無い話ですし、テストを受けるような方であってもテストの時だけはダメと覚えておくのがシンプルで良さそうですね。

今後文頭のAnd/Butが文法的に正しくないという説を聞いた時は「この方は教育機関の立場に立った規範文法の話をしているんだな」と脳内補完しておきましょう。話がややこしくなるので間違っても口に出さないように気を付けてくださいね。

今回も長文失礼しました!

 

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