900点というスコアは多くのTOEIC学習者の方々の目標スコアか、もしくはそれ以上のスコアだと思います。その域にたどり着くには多大な努力が必要である一方、スコア取得の見返りは大きくその世間的評価は英語学習者の間だけでなく非常に高いものとなっているでしょう。しかしTOEIC900ホルダーと言ってもピンキリです。中にはその高い評価を受けるに到底値しない凄まじく低い英語能力の持ち主も存在します。それが僕です。
「TOEIC900点を取るとこんないいことがある!」「900点ホルダーはこんなにすごい!」といった記事は数多く存在しますし、そのほとんどが同意のできる内容だと思います。でも、900点ホルダーにはごく稀に僕のようなポンコツが混じっていることは知っておいても損はないのではないでしょうか。大多数は優秀な方だと思いますが、この記事では無能900点ホルダーについて焦点を当てて実体験を元に解説していきたいと思います。
会話はほぼできない
職場でのとある日の出来事。
上司「けちゅ君、ちょっといいかな?」
けちゅ「はい?」
上司「窓口に外国人のお客さんがいらっしゃってるんだけど、英語しかできないみたいで用件が分らないんだよね。ちょっと何をしに来たか聞いてくれない?」
けちゅ「え、私がですか!?」
上司「けちゅ君TOEIC900点だったよね?頼んだよ」
けちゅ「ハ、ハロー」
お客様「Hello.」
けちゅ「ナイストゥーミーチュー」
お客様「Nice to meet you, too.」
けちゅ「シーユー!グッバイ!」
お客様「What!?」
上司「あれ、もう終わったんだ。どうだったの?」
けちゅ「お帰りいただきました」
TOEICはListeningとReadingしか無いので( 一応S&Wテストもありますが受けている方は少ないでしょう)、会話の能力は身に付かないという批判意見を目にしたことがある方は多いでしょう。僕も心からそう思います。TOEIC900点を取得するような方はほとんどが優秀な方で、TOEICに限らず他の学習方法でも4技能を満遍なく身に着けているのでこのような現象が起きにくいということでしょうか?僕のようにTOEICしかできない人間がこうなるのは自然なことかもしれませんね。
ちなみに僕はただでさえ無能であるにも関わらずこの一件でさらに職場での評価を下方向に限界突破させることに成功しました。これも無駄に「900点取ったぞ!」などと言いふらしていたからでしょう。会話に自信が無い方は不要不急のスコア公開は思いとどまった方が良いかもしれません。
なお、TOEIC900点を取得後に受けた英会話AEONでのレベルチェックテストでは11段階のうちレベル3(TOEIC 350~400点相当)、ネイティブキャンプのレベルチェックテストでは10段階のうちレベル4(TOEIC 225~355相当)とそれぞれ診断されました。これらはSpeakingによるテストなので、僕のSpeaking能力がListeningやReadingに比べて著しく低いことが客観的にも証明されているわけです。
※ちなみにこれらの結果は、できないと思っていた自分の予想をさらに下回る低さであり、結果が出たあとはしばらく落ち込みました…。
聞くこともできない
Speakingができない理由は単純明快なのですが、それならListeningはどうなの?と思われることでしょう。結論から言うとできません。
元は無能な僕でも900点を取れるようになったんだからそれなりのListening能力がついたはず!と考えるのは自然なことだと思います。しかしひとたびネイティブ向けの英語ニュースを視聴してみると全く何を言っているのかサッパリ分かりません。なんならそれが英語なのかどうかすら分かりません。英語学習で人気のある方法の一つである海外ドラマも試してみましたが字幕がないとストーリーが理解できません。仕草や表情、声の抑揚などから話の展開を推測するという別の能力を鍛えるトレーニングのようにも思えました。TOEICのナレーターの方々がいかにゆっくり分かりやすく発音してくれているのか分かるというものです。自分の能力がTOEICの中でしか役に立たないものだと気づくのにそれほど時間を要しませんでした。
もちろん読めない
後輩「けちゅさんって英語勉強してましたよね?」
けちゅ「あぁ、うん。一応」
後輩「海外からメールが届いたんですけど、訳してくれませんか?」
けちゅ「!」
後輩「読めそうですか?けちゅさんってTOEIC900点でしたよね?」
けちゅ「読めるよ。でも1か月ちょうだい」
その後二度と翻訳依頼されることはありませんでした。
ReadingもListeningと同じくTOEIC教材という枠の外に出てみると自分の無能さをすぐに実感できます。試しに英語の新聞などを読んでみると単語が分からなさ過ぎて全く読み進められません。限られた語彙しか必要とされないTOEICとはレベルが違います。一つの文に複数の初見単語が登場してきて、それらを片っ端から辞書で調べながら読み進めようと奮闘するも次第に記事への興味は薄れ面倒くささが勝ってきて挫折を迎えます。
「じゃあSNS等でもっとカジュアルな分章を読みたい!」と考えたりもしましたが、そうするとより悲惨なことになります。口語調で書かれたネイティブの文章は主語を始めとした文の要素が省略され過ぎていて、「SVO!」「SVOC!」と今まで必死に学習してきた文法知識が全く役に立ちません。単語さえ分れば意味が分かりそうなフォーマルな文章の方がよっぽど読みやすいです。
なぜこのようなことになったのか?
昇進のためにスコアが必要等の理由で、そもそもTOEIC対策の学習しかしていない方であればこうなるのは仕方がないと思います。しかし僕は英語学習開始初期の頃から、「TOEICしかできない人間にはなりたくない!」と思って学習に取り組んでいました。試験直前の時期などはさすがにTOEIC学習だけに専念した時期もありましたが、英会話スクールに通ったり海外ドラマを見るなど基本的にはバランス良く勉強したきたつもりです。それなのにどうしてこのようなことになったのでしょうか。
そもそも僕に実勢的な英会話の才能が無いという可能性を排除して考えると、原因はいろいろあると思いますが「TOEICで900点をとること」は「英語が話せるようになること」に比べて単純にずっと簡単なんじゃないか僕は思います。一般的に「TOEIC900=英語の達人」のような考え方が浸透していますが、僕は違うと思います。「TOEIC900点を取ること」と「ノンネイティブが英語の日常会話ができるようになること」では難易度が違い過ぎます。多分後者の方が3倍は難しい(僕の感覚上の話。根拠は無し)。
あとは学習の方向性の違いというのも大きな要因だと思います。英会話の学習もTOEICの学習も、同じ「英語の勉強」というカテゴリには属すると思いますが、ベクトルの向きが大分違うと思います。多分自分もTOEIC学習にあてた時間を全て英会話にあてていれば今とは大分違う結果になっていたんじゃないでしょうか。少なくとも「少しは英語が喋れる」と言えるレベルになっていたと思います(ただし希望的観測に基づくものとする)。だから逆に「英語が話せるけどTOEICはできない」という方も少数ながらいるとは思います。でもそういう方は少しTOEIC対策の勉強をすればすぐスコアが伸びるのではないでしょうか。
終わりに
ご注意いただきたいのですが、この記事は900点ホルダーの方を馬鹿にするものでありません。普通は「TOEIC900点=英語のできる優秀な方」と考えて差し支えないと思います。英語の能力を総合的に鍛えていき、学習の一環にTOEICを取り入れたその結果900点を超えたという方であればこうはならない可能性が高いと思います。TOEIC900点ホルダーが無能なのではなくて、僕が無能なだけです。
そして、できないことにだけ焦点を当てた記事なのでネガティブなものになりましたが、実際は900点を取得したメリットも沢山あります。TOEIC900点など目指す価値は無いなどと思っているわけではありません。むしろ是非積極的に取得して欲しいです。
僕にとって900点というスコアに到達して見えた世界は、まだまだ無限に広がるこの先の英語学習の世界でした。これだけのスコアを取得してもまだ何もできない自分を再認識することで学習の視野が広がった気がします。自分の目標は英語を自由に話せるようになること。そのゴールまでの道のりを考えるとTOEIC900点などというレベルは序章に過ぎないと思います。でも、そのために頑張って来た勉強は無駄にはならないんじゃないかな。多分。
この記事を読んでくれた方々が目標のTOEICスコアを達成する日が来ても、そこで満足しないでさらなる英語学習の世界へ足を進めて行って欲しいなと思います。